柔術技法の研究 『拳法図』 その5 霞
柔術では敵の動作を止めるために、さまざまな当身の法を伝えている。
このことについて、筆者はすでに四半世紀前、『日本柔術当身拳法』(この本は愛隆堂の武道書の中で驚異的な販売部数を記録した)の中で詳述した。
今回述べる「霞」という技法は古流柔術にはおよそ存在するものであるが、両眼を引き裂く方法は楊心流系統だけに見られる特殊な技法である。
楊心流・真之神道流・天神真楊流における初段居捕の最初手にある「真之位」の形では、右手指先で平円を描くように霞を掛ける。
他流ではこめかみを手刀で打つ技法をよく見る。
この『拳法図』では、敵が抜刀しようと右手を柄に掛けた刹那、捕は左手で霞を掛け、右手で襟を掴んでいる。
柔術において技に入る前に入れる当身は、敵を倒すものではなく、敵の動作を止めて、技を掛けやすくするための補助技法として用いられるものである。
柔術は生捕りが主眼であるから、敵に損傷を与えてはならない。
そこが他国の武技と異なる日本柔術の最高に優れた点である。