長袴のこと
演武における服装、特に袴について簡単に述べてみたい。
袴には両足を分けてはく馬乗袴と、スカート状に仕切のない行燈袴がある。
武術の演武ではほとんど馬乗袴が使われる。
また、同じ袴でも礼服に用いる長袴(裾を引きずってはく)や、逆に膝辺を紐で縛る小袴などがある。
この小袴は武術の絵目録によく見られ、稽古でも動きやすいスタイルなので、当時はよく用いられていたのであろう。
しかし、長袴は礼服であるし、こんなものを引きずっていたら武術の稽古などできたものではない。
やはり伝書における描写法の一つなのだろう。
前回の裸体捕と同じように、伝書に描かれている姿がそのまま稽古や演武で行われた姿態ではないことを知るべきである。
なお、現在の一般に使われている武道用の袴は、江戸時代のそれよりも股立ちが非常に小さい。
昔の袴は股立が膝のすぐ上のところまで空いている。
また、現在、躰道で使われているような細いズボン状の野袴は江戸時代にはほとんど使用されていない。
稽古用の袴でやや細めに仕立ててあり、丈も短めの馬乗袴は稽古に多用され、重宝された(『天神真楊流柔術極意教授図解』の挿絵参照)。