五鳥図
今回紹介する武蔵の画は、彼が没する前年の正保元年(1644)に描かれたもので、彼が病に伏していた年である。
絵全体に迫力はないが、最晩年の彼の境地がよく感じられる作品であると思い、蔵品に加えた。
それは力の剣ではなく、気の、そして精神の剣として案出した「五方ノ太刀」の趣をこの絵が具現していたからだ。
五匹の鳥はあたかも「五方ノ太刀」を表していて、空木土、すなわち天人地三才の空間に五行を配したようにデザインされている。
二匹を天に舞わせたのは号の「二天」を表象しているのだろう。
清楚な作品の中にも武蔵の強い意気込みを感じることのできる名作と評価したい。
署名は正名と読めるが、かすれていて判然としない。