両分銅鎖用縮緬袋
「万力鎖」として世界中に知られている両分銅鎖。
これを万力鎖とよぶのは正木流だけで、他流ではいろいろに呼ばれている。
戸田流では両分銅鎖といい、村上流では鉄鎖という。
世の中に正式な伝承として残っているのは荒木流だけであろう。
私が伝える甲陽陣屋伝捕手術にもあるが、断片的に二十数手ほど学んだだけで、もとより皆伝ではない。
そして、現代ではそれらを模した創作流儀がいくつか出現している。
明府真影流のように新流儀であることを明示すれば問題はないが、伝承を捏造するのはよくない。
それは日本武術のルネサンスと言えば、聞こえはいいかもしれないが、古伝をしっかり研究して稽古をしないと、武術そのものの存在意義をなくしてしまう。
第一、現代の世でこのような道具を使うことは法制上許されないのであって(護身と称しても現在ではこのような道具を携帯することが許されていない)、武術として道場内で稽古する以外に目的はない。
ではやはり、きちんとした伝統に則って稽古すべきである。
この道具の正しい使い方は、これを布袋(ぬのぶくろ)に入れて使用する。
『柔術剣棒図解秘訣』
布は縮緬がいい。
『村上流鉄鎖秘術』
袋の一部に穴を空けておき、そこから両分銅鎖を入れ、分銅の付け根を外から縛る。
これは道具を露出して衆人を脅かすのを防ぐと同時に、衣類を傷めない工夫でもある。
それは袋に入れて外出する場合、これを懐中や袖中に入れ、あるいは右腰の帯に挟んで携行するのである。
敵を捕らえる場合でも、袋に入れてあれば、擦り傷をつくらせない便もある。
道場内の稽古では剥き出しでもいいのかも知れないが、本来の使用法を心得ることは武術の稽古として必須であり、また、そうした状態で稽古をする機会があってしかるべきである。
それが本来の使い方であるのだから。