朱鞘のこと
筆者は幕末が大好きである。
武士に主義主張が生まれ、下級武士が活躍できる時代であるから。
このころになると、刀の規定も崩れ、講武所流の黒鞘は勤皇党に嫌われ、彼らは白柄朱鞘の長い差料を帯びた。
筆者はこの白柄朱鞘の居合刀を愛用している。
巷の一説によると、朱鞘は浴衣に合わせるものであるという。
少し違うのではなかろうか。
まず浴衣姿では帯刀しない。
夏に朱鞘を用いる理由はきちんとある。
夏は暑いため屋敷の中で涼んで外へ 出ると、暖気によって鞘の内部の温度が上昇し、結露して錆の原因になる。
その熱対策として夏は黒鞘ではなく朱鞘が用いられた。
だから浴衣姿で朱鞘を差したのではなく、朱鞘は鞘に熱を籠もらせないための 「刀の浴衣」 なのである。
公務以外で朱鞘が好んで用いられたことは諸文献で知れるところである。