武術における姿勢の戒め
昔から武術の世界には 「身の規矩」 という教えがあって、身体は特殊な技法を除いて基本的には常に地(床)に対して垂直に保つことが要求された。
そして足構えにおいては撞木足を大原則に据え、現行の剣道のような両足の爪先が前を向くことを良しとしなかった。
最近の手内剣術の動画を見ると、姿勢がまったくなっていないものが目立つ。
古流ではないからいいのではないか、と言いたいのかもしれないが、姿勢の基本が崩れたら、それは古流どころか武術ではなくなってしまう。
これらの人たちは多分、古流の武術を経験したことがないのだろう。
だから手内剣をただ的中すればいいというように、ダーツか何かと混同している感がある。
まず日本武術の大前提にあるのは順体であるから、古流では身体の捻りを極端に嫌う。
そのための身体の運用法が各古流にはしっかりと伝えられている。
だから演武を見ればすぐに古流かそうでないかを判別できる。
これを今、手内剣術を例に見てみたい。
『図解手裏剣術』 のイラストを見ると、立て膝打ちの場合、身の規矩をしっかりと守っている。

立て膝がそうであるならば、立って打つときも同じでなければならない。
筆者が手内剣を順体で打つ所以である。
根岸流の成瀬氏の写真を見ると、姿勢がやや前傾しており、体もやや捻れている。

これは逆体故の仕方のないことであるが、現在の人たちに比べれば、身体の傾きも捻れもかなり少ないことがわかる。
そしてもう一人、心月流手裏剣術の菊地和雄氏の打剣の際の姿勢を見てみよう。

逆体であるが、全く前傾せずに身の規矩を守り、後ろ足の踵も浮いていない。
これが正しい投擲の姿勢である。
よくよく研究されたい。
(完)