袴帯の結び方
先日の居合道演武会で某師範が私の袴の結び (結びきり) を見て言った。
「そういう結び方をしていたら審査には絶対に受からない」 と。
それで言い返した。
「私はそんな団体に入るつもりは毛頭ないし、大体、審査なるものを受けない」 と。
下の画像が私がしている結びきり。

聞くところによれば、その流儀では決まりで私が一番嫌う 「十文字」 に締めないとダメらしい。
その流儀はというと実は戦後創作されたものであることをご当人は何にも知らない。
そして、彼らがしている十文字結びなるものが、戦後になって一般化したことも彼はまったく知らない。
つまり、指導者が教えたことに対して何の疑問も持たず、何の勉強もせず、ただ盲目的に 「審査」
のためにやっているだけなのである。
さて、それでは袴帯の結び方について少し述べてみよう。
袴帯の結び方には十文字、一文字、重ね片結び、結びきり (武者結び) 、蝶結び (花結び) などがあり、またこれらの変化結びが多くある。
これらの中で袴帯の結び方は本来 「結びきり」 あるいは 「一文字」 が武家では普遍的であった。
一文字結び。

袴帯は特殊な事情がない限り、解けないように結ぶのが当然である。
十文字はもっとも解けやすい結び方であり、まったく実用的ではない。

上の古写真では右前で捻り結びにしている。
これで絶対に解けない。
すぐ解けるように結んだり、外出から帰ってきて結び方が違うと厳しく追及される。
徳川慶喜の写真を見ても一文字の団子結びで解けないようにしている。

しかし常に結びきりで袴を着用すると、すぐに紐が傷んでしまうので、十文字結びなどが明治時代後期以降に考案された。
特に戦前までは、十文字結びはおめでたい席などでしか使わなかった。
江戸時代の武術伝書に見る袴帯はほとんどが一文字である。
十文字は一つもない。
要は、元来、袴帯の結び方には規則も強制もなく、個人の好みで自由に結んだということである。
下は影山流の大正期の写真。

結びきりで一端を垂らしている。
一つの流儀の固定観念で他流を批判してはいけない。
なお、諸氏が十文字結びにしているのを非難するつもりはまったくない。
誤った指摘をされたから持論を述べたまでである。
(完)