伝書一括授与の話し
古武道の各流儀には厳格な教習課程と伝授規定がある。
たとえば、切紙・目録・皆伝・印可のように。
そして、原則的にはこれらは修行にしたがって順次、授けられていくものである。
ところが、意外に多く見かけるのが、これら複数の伝書を印可の際にまとめて授けられることである。
画像の伝書は享保十七年の正月に、三巻まとめて発行されている。
これにはさまざまな理由が考えられるが、もっとも常識的に考えられるのは、弟子と師匠の信頼関係であろう。
多くの場合、初伝である切紙をもらうと止めてしまったり、精々頑張って目録までいくかどうか、ほとんどの門人は皆伝を得ずして止めていく。
古武道の場合、切紙や目録をもらっただけでは何の役にも立たない。
だから安易な気持ちで古武道をやるものではない。
免許皆伝、そして印可をいただいてはじめて流儀を継承したことになる。
しかし、ここでもまだ終わりではない。
重要な仕事が残っている。
皆伝・印可などの免許を得たら、弟子を取って教授しないといけない。
免許とは弟子を取って教えるための資格である。
免許を持っていても、弟子を取って教えなければ、その免許は「ただの紙切れ」でしかない。
車の免許を持っていても運転をしないペーパードライバーと同じである。
だから師範は、長年修行を続けて、生き残った信頼できる弟子にだけ、すべてまとめて伝書を発行するのである。
(完)